Farmers -生み出す人- vol.1 スイカ農家:鈴木英雄さん

 

農家は、アーティストだ。

 

 

食べることは、生きること。

食べることは、暮らしを豊かにすること。

食べることは、未来を作ること。

 

食べるもの、それを生み出す農家さんは、食物をデザインし、私たちの暮らしを彩る。

僕が農家さんを間近で見て感じたことは、農家さんはアーティストだということ。

農家さんの想いが伝われば、暮らしはもっと豊かになる。

 

そんな農家さんに、フォーカスします。

 

 

vol.1 スイカ農家 鈴木英雄さん

もし自分が30歳だったら、スイカ農家になるか。

 

この質問に彼は即答した。

 

 

「なる」

 

 

 

 

夏、毎朝5時半に起きて1つ10kg、ボーリングの玉のようなスイカを2つずつ箱に入れる。
1箱の重さは優に20kgを越える。
その箱は10,20とトラックに積まれ、50箱、100個を数える。
そして市場に着き、その荷を自ら降ろす。

 

驚くべきは、その行程のすべてを60歳、70歳の方々が行っていることだ。

現在スイカ農家である鈴木英雄さんは元々危険物運搬業にずっと携わって来た。

しかし65歳の頃、奥様が倒れて長期間の入院が必要となり、長時間拘束されるサラリーマンではない別の選択肢を考えるようになった。
英雄さんの実家は農家を営んでおり、そこは兄が継いでいた。
その兄から農家を勧められた。
幼少期から親の農作業を手伝っており農業と心理的な距離の近かった英雄さんは、

「農家であれば時間の融通が効き、病院への面会時間も取りやすい」

と考え67歳から農家になった。

今では6反部、およそ25mプール12個分、の畑でスイカを育てている。

 


英雄さんの畑から。山あいで高所に位置しており、大きな寒暖差はスイカに適している

 

 

 

 

スイカの育成は体力的にとてもきつい。
なぜなら、その行程のほとんどが「機械化できない」からだ。

 

 

■受粉
スイカの花が咲いたら「受粉」することで実をつけようとするわけだが、その「受粉」は物理的に
おしべとめしべが接触する必要がある。

 

方法は2つ。

 

手でこすり合わせるか、みつばちにお願いするか。
みつばちは気まぐれで確実性が担保されないと言う理由で、英雄さんは手作業を選択している。

 

 


実際に受粉している様子。手でこすり合わせる。

 

 

 

想像してみていただきたい。

25mプールにスイカの苗が整然と並んでいる。

それらのおしべとめしべをかがんで1つずつ手に取ってこすり合わせて行く。
何百回も。

 

腰が痛い。

 

 

■転がす
実がなり、その実が少しずつ大きくなる。
一定期間が経つとスーパーに並んでいるスイカの大きさになる。

 

その大きくなる過程で太陽の光を浴びないと皮が緑色にならず、黄色いまま。
従って、実を転がして下の部分を太陽光に露出する。


腰をかがめて1つずつ作業を行う

 

 

 

想像してみていただきたい。

25mプールに小さなスイカが整然と並んでいる。

そのスイカたちを1つ1つ転がす。

何百個も。

腰が痛い。

 

 

 

■温度調節する

スイカは列になって植えられているが、1列1列は小さな半円形のビニールに覆われている。
これは温度調節が可能になるよう存在する。

 


高さは膝上くらい。作業は全てかがんで行う必要がある。

 

 

 

つまり、暑すぎればビニールを開けてやり、寒ければ覆ってやる。

想像してみていただきたい。

25mプールにずらっと小さなビニールハウスが並んでいる。

それらをその時々の温度や湿度に合わせて開けたり閉めたりする。

 

 

何十個も。

 

 

腰が痛い。

 

 

■収穫

これらのプロセスを経てようやくスーパーに並べられるほどのスイカができる。

1つ10kg超。12-15kgほどになるものも珍しくない。

 


重い。

 

 

身の回りのもので10kgを越える重さのものは意外にない。
ぜひ10kgの米袋を持ってその重さを体感していただきたい。

 

その重いスイカ。
スイカは割れると売れない。
しかし、割れやすい。
よって、機械を使ってまとめて収穫はできない。

 

1つずつ手で採って運ぶ必要がある。

 

 


成熟度合いを1つずつ確認しながら。

 

 

 


落とすと割れるので、慎重に。

 

 

 


台車からトラックへ移動する。

 

 

 

 


台車で何往復もして、ようやくトラックがいっぱいに。ここからさらに降ろして、拭いて、箱に入れて、もう一度トラックに乗せて、ようやく出荷ができる。

 

 

 

想像してみていただきたい。

 

25mプールに重いスイカが転がっている。
それを1つずつ持ち上げ、荷台まで運ぶ。

 

何百個も。

 

腰が痛い。

 

以前に少し収穫体験をさせていただいただけの僕は、その収穫の大変さだけで音を上げてしまった。
しかし大変なのは収穫だけではなく全てのプロセスなのだ。

 

 

ここまでお話を聞いて僕は思わずシンプルに聞いてしまった。

 

 

 

なんで、スイカ農家をやるのですか?

 

 

 


畑の中でも外でも、朗らかに僕の質問にお答えくださった。

 

 

 

 

鈴木英雄:
「スイカっていうのはね、農作物の中でも一番難しいと思っているんですよ。
例えば、スイカは受粉をさせなければいけないでしょ。
(前述)そのタイミングを見極める必要もあるんです。
気候や「つる」の状態を見ないといけないんです。
つるが元気すぎると受粉できないし、元気がなさすぎるとおいしいスイカができないんです。
温度調節も、昼間暑すぎればハウスを開けてやるし、夕方になって涼しくなれば閉める。
それらの見極め、作業が味に直結する、それが難しいけど、面白いんです。」

 

 

 

切ってみるまでのワクワク感、そこに全てが集約される。

 

 


作業途中の水分補給は、もちろんスイカ

 

 

 

 

 

千田:「僕だったら、怖いんです。味以前に、割ってみてスカスカだったり熟れ過ぎてぐじゅぐじゅに
なっていたりする可能性もあるじゃないですか
スイカってとても期待値が高いのでそのワクワク感を台無しにしてしまうかも、
と思うととっても怖い。」

 

 

 

 

鈴木英雄:
「だからこそ、真剣になれるんです。
不良品は絶対に出したくない。楽しんでもらいたい。
そういう想いがあるので、より向き合えるし、やりがいもあるんです。」

 

 


スイカを通して、食べ手とつながる。その強い想いをお持ちでした。

 

 

 

 

スイカ農家、という道をあえて選ぶ。

 

 

 

 

千田;
「もし、スイカ農家がこういうものだと分かっていて、かつご自分が30歳、40歳に戻れるとしたら
スイカ農家になる道を選びますか?」

 

 

 

鈴木英雄:
「なります。今よりももっと広い面積でやりたいですね。」

 

 

 

千田:
「収入、という点で農家になることを逡巡される方もいらっしゃいますが」

 

 

 

鈴木英雄:
「スイカは他の農産物と比較すると価格面で優位性があります。
その点を加味すると、やはりスイカ農家というのは魅力的であると感じられます。
なので、もし自分が30代でかつ収入を考えればスイカ農家になり、かつ作付け面積を
広げて行きたいですね。
ただ、これまで話した通り育成の行程のほぼ全てが手作業で、経験等からの見極めが必要なものも
あるので、人の育成、ということも念頭に置く必要があります。
きちんとした収入を得るためには良いスイカを作って、お客様に買っていただく必要が
ありますから。」

 


現状に満足せずさらに進化しようと試みる。

 

 

 

ご家庭の事情で高齢になってからの農家という道を選択し、そして兄の勧めでスイカという作物を
選択した英雄さん。

 

 

「重たくて重たくて、きついし、やっていられないよ」

 

 

そう言いつつもスイカの面白さを語る英雄さんを見ていると、英雄さんのスイカがなぜ抜群に
おいしいのか、その理由が少し分かった気がした。

 

 

 

 

 

編集後記:
地域おこし協力隊として伊豆の国市に来て1週間ほど経ったある日、
いつものように英雄さんのトラックからスイカの入った箱を下ろしていると、
良いから持って行け、とスイカをいただいた。

誇張ではなく、その時いただいたスイカは間違いなく人生で一番、ダントツにおいしいスイカだった。
2歳の娘はその日から数日、朝になると冷蔵庫にしがみついてスイカスイカと叫ぶようになった。

翌日、とてもおいしかった旨を伝えると、いつもは挨拶くらいしか交わすことのなかった英雄さんが
恥ずかしそうに、うれしそうに、誇らしげに、ありがとう、と言ってくださった。
その時の顔が忘れられなかった。

朝も早いしスイカは重いし、日々大変だろうに、なぜこんなにステキなお顔になるのだろう。
そう疑問に思ってスイカについて学び、考えてみた。
しかし疑問は深まるばかりだった。
なぜ農家さんであるのか、なぜスイカなのか、なぜステキな笑顔になるのか。

一方、毎朝お会いする農家の方々はご高齢であることが多いにも関わらず生き生きと、
かつ淡々とおいしい野菜を日々持ってこられる姿を見て尊敬の念を覚えずにはいられなかった。

すごい。自分には絶対にできない。

農家さんへの興味と、尊敬の念から自分のできることを考えた時の1つの答えが
農家さんを何かの形で世に出すこと、だった。

これから少しずつでも、暮らしを彩る方々の姿を書いて行きたい。

 

 

 

 

 

 

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