イズクラシ、楽しんでます。千田です。
昔の農家さんが野菜や米を背負って、歩いて峠を越えて、海辺の街でそれらを販売していたという話。
実際に星合さんや佐藤さんからそういうお話を聞いて、僕は「すごい」という言葉しか出ませんでした。
そこで、その行為がいかに大変だったのかを身を以て体験することに決めました。
題して、「イズノボッカ」
これをやってみようと思い、当時使っていた野菜などを背負うための道具である「しょいこ」を借り、
実際に歩く予定ルートを車で走行してみました。
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道具を借りた時の記事
ルートを車で走行した時の記事
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ここまで来て、
「よーし、次はいよいよ歩くかー。待てよ、ゴールはどうしようかな、野菜売れる場所を探さないと」
などと一人悶々と考えていました。
そこで、「イズノスミ」の取材の時に浮橋の方からこう言われたのです。
「まずよ、荷物なしで歩いてみろや。それだけでもう嫌になるぞ。」
確かに。
そこでアドバイスをいただいた3日後、千田は予定ルートを実際に歩いてみました。
今回はその珍道中の記録です。
朝9時過ぎ、僕は浮橋の地に立っていました。
ここから片道およそ10km。
昔の方に思いを馳せます。
背中には30kg,40kgと荷物を背負い、足元はわらじ。
僕は、
水一本にナイキのランニングシューズ。
良いんです。今回、まずは歩き切ってみることが目的なんですから。
思いを馳せること10分。
9時半に賀茂神社をスタートします。
まずは県道80号を目指して裏道を。
11月ももう終わり、葉っぱたちが色づき始めていてとても目に優しい仕様になっています。
途中知り合いの方々にお会いしながら30分ほどで県道80号へ出ました。ここまでずっと上り坂。
するとすぐに「イズノスミ」で木を切った場所に出るので、切られた木たちの様子を伺います。
画像手前、大木がきれいに並べられているのがわかります。今度はこれを70-90cm幅に切る作業があるそうです。楽しみ。
さらに少し進むと佐藤さんの畑があります。
この日はごぼうを収穫する日。立ち寄ったのはちょうど休憩タイミングでした。
今歩いていることを伝えると、まぁ頑張れやとのお言葉とコーヒーをいただきました。
「そこを開けてみろー」
ごぼうだ!
すげぇうまそう
「帰りに寄りな。やるから。」
なんて優しい。これを糧に、絶対歩き通すと心に誓います。
ルートのうち、1つの目安となるのが「山伏峠」です。
伊豆の国市と熱海市との境目でもあり、登りと下りの境目でもあります。
佐藤さんの畑からは峠までは2kmほど。道も、傾斜の緩い登り坂なのでウォーミングアップにはもってこいですね。
木々の様々な色と青空は、自然と心を軽くしてくれます。
そして、
「会社を辞めて山を一人で歩いている自分」
にもおかしみを感じて来ます。
六本木のコンクリートジャングル(まさにジャングルのよう)
から
伊豆の山の中(鹿と猪の楽園)
への華麗な転身。
「なにやってるんだ。でも、すんごい楽しいから良いか」
などと思っていると、山伏峠に到着。ここまで約1時間。
ここからは、ずっと下りです。ずっと。
そして、下りって「腰にくる」んですね。初めて知りました。
下り始めて10分も経つと、海が見え始めます。
緑、赤、黄、茶、自然が作り出すモザイク柄は、ひたすら郷愁を誘って来ます。
そしてその郷愁の念はいつしか昔この道を歩いた農家さんへと向き始めたのです。
もちろん道路は舗装されていなかったでしょうし、荷物だって重かったでしょう。
毎日のことですから、僕のように景色を愉しむということもなかったでしょう。
見える景色はきっと、季節を知り、天気を感じ、それで明日の農作業の段取りを確認するための情報を得るためだけのものだったのかもしれません。
ただ毎日黙々とこの道を下り、そして登る。
一歩踏み出すごとに、腰や足の痛みを感じるごとに、先人のすごさが身にしみます。
「かなり歩いたな」
そう一人つぶやいた時に、青い看板が見えました。
国道135号 5km
うそ…だろ……?
国道135≒ゴール地点なので、つまり後5km。
これからさらに5kmか。昔の人本当にすごい。
気を確かに持って、歩き続けます。
にしても、この道は「斜度がえぐい」んです。
ただ、「斜度」って本当に写真で伝えるのが難しいですね。
黙々と歩き、たまに自分の境遇の変化にニヤニヤし、時折すれ違う車の運転手にガン見されながら1時間ほど。
すると何やら芝生が。
奥には小河的なものも
そう言えば以前「子どもの頃に親と一緒に歩いてこの道を歩いていた」という人が言っていました。
「道中、いくつか水飲み場のポイントみたいなところがあって、そこで休憩して水を飲んだりしていたよ」と。
もしかしたらこれも当時の農家さんたちの、きつい道中のオアシスだったのかもしれません。
この水辺が醸し出す雰囲気が故でしょうか、この先を進む道がなんとなく「異世界に続く道」のように感じられるのは。
ここからさらに15分ほど歩くと、いよいよ民家が見えて来ました。
さらに少し行くと、海がかなり近くに。
海だー!
この辺は本当に勾配がきついところですが、その分水はけがいいので果樹の栽培に適しているようです。
ので、たくさんオレンジ的なものが。
線路が見えて来ます。ここまで来るとほぼゴール。
「下多賀」の文字。
この下多賀という集落、確かに家の戸数がかなり多いです。
浮橋と比較して家がかなり密集して建っています。また、歴史のある街なのかかなり味のある建物も。
これとかすんごいステキ。駄菓子とか売ってたんですかね、きっと。
とても雰囲気のある集落です。
などと考えながら歩いていると、無事に下多賀神社へ到着!
浮橋の賀茂神社から下多賀の下多賀神社まで歩いた結果は以下のようなものでした。
所要時間:2時間15分(佐藤さんの畑での滞在時間含む)
距離:9.82km
下降した高度:335m
さて、今回の目的はただ歩くだけではなく、実は「販売先」を探す、というのもあったのです。
昔は家を一軒一軒回って売っていたそうですが、今それをやると警察に通報されちゃうのでは、という危惧があったため、どこかで売らせていただけないかなと考えていました。
そこで「神社で売らせていただけないかなー」と淡い期待を抱きつつ、社務所をピンポン。
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-カクカクシカジカで、神社で売らせていただけないですかね。
「んー、季節のお祭りとかで屋台を出したりはするけどねぇ。」
—
責任者でいらっしゃる方は、昔浮橋の農家さんが野菜を売りに来ていたことも覚えていらっしゃり、ご協力したい気持ちは、ということでしたがやはり無理そう。
そりゃそうですよね。
得体の知れないやつが急に来て、「ちょっと商売させてくれ」というのは。
しかし、ここで諦めてはいけません。食い下がりましょう。
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-朝市とか、この辺でやってないですかね。
「こういうのはあるよ」
—
聞けば、この朝市が行われている公園はバスで15分ほどとのこと。だったら歩ける!ゴールをそこにして、そのまま朝市に出店しちゃえば良いじゃん!!!
ということで、お礼を言って早速役所へ電話。
急で不躾な話に、優しく丁寧にご対応いただき、本当にありがとうございました。杉山さん、ありがとうございます!
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熱海市役所との会話
-この朝市、出店する際の条件等ありますか
「熱海市か函南町で事業をされている方、が出店可能です」
-伊豆の国市はダメですか
「残念ながら…」
—
これはやばい
神社と朝市、大きな期待を託していたにも関わらず無残にもそれを断たれた僕は、もはや捨て身で近くにあったJAの直売所に入りました。
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直売所の方との会話
-あのー、本当に不躾ですみませんがカクカクシカジカでここで野菜とか売っちゃダメですか?
「組合員になっていただかないと…手売りもちょっと…」
—
そりゃそーだ
「藁にもすがる」と言いますが、人間って切羽詰まると本当に藁にすがるんですね。
身を以て体験できてよかった。
本当はここから網代までさらに2kmほど歩いて漁協の直売所とか行くべきなのですが、もう心が半分折れているので(多分断られるし)「まずは歩き切ったことだけでもよしとしよう」と自分を納得させて帰ることにしました。
しょーがないしょーがない、自分を鼓舞しているととてつもないことに気がついたのです。
歩いて帰らないといけないじゃん
斜度が本当にエグいんです。
山へ。
ヘアピンカーブにもマケズ。
これは見なかったことに。
さらば、海。
「あそこを通ってきたんだな」ととてもわかりやすいですね。
帰りは、山伏峠手前でヘロヘロになりながらも動画を撮りました。
やはり、動画の方がその高さや景色の雄大さが写真よりも伝わる気がします。
そして、山伏峠に到着。
帰って来たな。
山に入って落ち着く自分がいました。
浮橋が見えて来ました。
そして、ゴール。
到着時刻は14:45
9:30に出発して実に5時間15分の長旅でした。
帰って来た報告に、車で佐藤さんの畑へ向かいます。
車って本当に素晴らしいですね。
ちょうどごぼう掘りの真っ最中。
ご挨拶をすると手を止めて話を聞いてくださいました。
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-カクカクシカジカで、販売場所が見つからないんです。
「押し売りするわけじゃないんだから、一軒一軒回れば良いんだよ。いらないって言われたら、わかりましたって帰れば良い」
—
確かに!!!
確かに、購入を強制しなければ法律にも抵触しないか。確かに確かに。
じゃあ、
できるな。
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「そんときはよ、うちのコメと野菜やるからよ」
-ダメです。そこは買わせていただかないと、責任感も出ないですし。
「そうか。わかったわかった。じゃあ、歩けたご褒美に野菜やるよ。持って行きな。」
-あざーす!でも、商品にならないやつでお願いします…
*実際にはこの3倍ありましたが、全部あると何が何やらわからなくなるので抜粋させていただきました。ご了承ください。
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–試し歩きを終えて–
- 荷物あって本当に歩き切れるかしら
- これを毎日やるって、一体どういうことなのか見当もつかない
- モバイルバッテリーは必須。足跡のログを取っていたからか、往路で充電が残り10%になっちゃった
本当にいい試金石になりました。いつやろうかな、本番。楽しみです。
◼️後日談
いただいた野菜が筆舌に尽くしがたいうまさでした。
白菜、生でいけます。
「生でも食べられる」のではなく、
「生がうまい」です。もちろん、火を通しても甘いです。「生でも火を通してもうまい」のです。
ごぼうとにんじんはきんぴらに。
いつもより砂糖を控えめにしたのに、いつもより甘いという謎現象が発生しました。
カブは塩で揉んで15分ほど寝かせました。
うますぎ。ちなみに、塩もみ前にそのまま食べたら「あまっ」と声が出ました。
本当に贅沢です。本当にありがたい。
イズノボッカ、次回はいよいよ本番です。